己と戦場を隔てる砦

鎧とは、体を覆って相手の攻撃から身を守るための防具です。同時に衣服の延長としての役割も備えており、身につけている鎧は衣服と同様、身分や職業、出身地や性格など様々な情報を表す記号としても働いています。

たとえば、全身を分厚い甲冑で覆った戦士と、最低限の部分だけを守った戦士とでは、両者の戦闘スタイルが違うことくらいは分かります。傭兵、騎士、冒険者たちはそれぞれ選ぶ鎧のタイプも変わるでしょう。

鎧に使われる素材は様々です。金属はもちろん、布や革、植物の蔓、木、竹、紙を用いたものも存在します。重厚な防御力を高めれば、それだけ機動力を失うことになりますので、自分の武器と併せて考えながら選ぶと良いでしょう。

入手方法については誰かに譲ってもらう、戦利品として手に入れるといった手段が挙げられますが、全身板金鎧を一式で購入するとなると、板金の型を取るため、基本的にはオーダーメイドとなります。しかし、かなり高価なので、打ち直ししながら先祖代々と大切に使うことも多いようです。出来合いの鎧を購入するのであれば、自分の体格に近いものを選んで修正してもらって使います。こちらは比較的安価で済むので駆け出しの冒険者や新米騎士がお世話になる方法です。

ファンタジー世界を旅する冒険者にとって、鎧はなくてはならない存在です。戦士たちは自分の戦闘スタイルに合ったなかで最大の防御力を持つ鎧を選んでいるでしょうし、騎士の身分であれば見栄えも考えてスーツ・アーマーやプレート・アーマーといった甲冑を着込みます。歴戦の傭兵たちもよく使い込んだ鎧を身に纏って登場することが多いでしょう。鎧というのは武器と並ぶ、戦士の顔です。また、前衛に出ることのない魔法使いや、偵察などを行うレンジャーやシーフたちも、体の動きを邪魔しない革鎧くらいは身につけています。

ファンタジー世界に登場する鎧には、武器にも負けないほどの派手な魔力を秘めた品などがありますし、同時に、身につけた者を滅ぼすほどの呪いが込められた鎧も存在しています。しかし、どちらにせよ、多くは「身を守る」という性能を強化したり、それを裏切ったりする力に限定されているようです。厄介な呪いの品としては、身につけると狂戦士化するものや、着用者の意志に反した動きを強制するものなどがあります。

鎧というものは、武器と比べると地味な扱いをされがちです。しかし、戦士にとっては敵の攻撃から自分の身を守るための、最後の砦でもあります。鎧の値段が命の値段、とまではいいませんが質の悪いもので妥協したり、あるいは見栄えだけで選んだりしないようにするべき重要なアイテムといえるでしょう。

機動性か防御力か

史実では鎧は、機動力と防御力との兼ね合いのなかで揺れ動きながら進化してきました。

武器の威力向上に対応しながら、布や革の鎧はやがて金属製へと変わり、金属加工技術の発達により、それまで体の大まかな部位だけを守っていたものが、全身を覆うようになります。

しかし防御力を重視して、より重厚さを増すと、代わりに動きやすさを失います。重すぎて動けなくなれば、たちまち格好の標的となり、それでは本末転倒です。

実際、全身板金鎧の時代、一人では立ち上がれないほどの重量と、関節可動域の狭い鎧も実在しています。落馬してしまうと、従者なしには起き上がれなかったほどです。

もちろん軽くするための努力もありました。装甲を薄くしながらも、曲面や波形に加工するなどして、強度を高めたり相手の攻撃を逸らすための工夫が施されました。これは装飾性にも一役買っています。

しかし、そういった工夫を凝らした鎧もやがて銃火器の発達によって終焉を迎えます。

飛び交う弾丸の中で甲冑の意味は失われました。威力の低かった初期の銃ならともかく、大砲を防げる甲冑を作り出すことはできなかったのです。なにより、重い鎧を着た兵士などは鉄砲隊の前では大きな的に過ぎませんでした。

そのため、体全体ではなく頭や胴など重要な箇所だけに絞って、機動性を殺さない鎧も作られました。拳銃やライフルを装備した騎兵がこうした鎧を用いていましたが、マスケット銃からライフル銃に変わり始める頃にはそうした軽装鎧も見られなくなります。

ファンタジー世界であればミスリルやオリハルコンといった金属や魔法の力によって銃との共存も可能ですが、現実世界においては銃の出現とともに実用的な役目を終えた、と言っても良いでしょう。


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