山賊とは、山岳地帯や森などに住みつき、通りがかる旅人などを襲う盗賊集団です。ファンタジー世界ではよく、騎士や冒険者たちに退治される、いわば雑魚敵として登場する機会が多いようです。
彼らは、山間部や森林を活動の拠点として定め、通りがかる旅人や商人を襲って金品を奪うことを生業としています。襲撃対象が要人などであれば、身代金目的に誘拐する場合もあります。自分たちの鼻先に獲物がいなければ、近くの街道や、または山村などの集落まで出かけて仕事をすることもあるでしょう。
山賊の襲撃は、基本的には待ち伏せです。身を隠したり、偽の隊商を装ったりと方法は様々ですが、不意打ちによって有利な状況を設定するのが定番です。
こういった奇襲戦法をとるのも、逆に言えば彼らが弱いからです。多くの場合、山賊たちは個々の戦闘能力や頭領の統率力など、それほど強力ではありません。武装もばらばらで、集団戦闘の訓練も受けていません。そのため、山賊退治に本気を出した正規軍による山狩りが行われると、あっさりと追い詰められてしまいます。
他にも集団で登場する悪漢どもといえば海賊が挙げられますが、やはり活躍(?)のスケールが小さいためでしょうか、荒ぶる海を舞台に世界を股にかけ、ときには軍艦とも渡り合うような彼らと比べると、悪漢としての魅力には欠けます。未知への挑戦、冒険という要素の少なさも欠点といえるでしょう。
しかし、山賊のなかには、その標的を悪徳高い豪商や圧政をしく貴族領主などに絞り、彼らから奪い取った金品を近隣の貧しい者たちに分け与えるような、義賊風情の者たちもいます。またこれに関連して、民衆のために立ち上がった者たちが弾圧から逃れたり、砦なき軍隊として森や山を拠点とする場合もあります。これはどちらかというと反乱軍、反政府ゲリラであって、山賊家業は仮りそめの姿といったところでしょうか。
さて、決して憧れの職業とは言えない山賊ですが、いっぱしの活躍をするには、野山を駆けまわれるだけの体力と足腰の丈夫さが必要となります。また、見張りや偵察が襲撃及び防衛の成否をわけますから、身軽であることも大切です。もちろん、獲物を追う場合でも、討伐隊に追われる場合でも、自分たちの庭である山を熟知している必要もあります。
そうした行動スタイルから、山賊の装備はショートソードやショートボウといった、取り回しの良い武器を選びます。せっかく待ち伏せして身を隠していても、ハルバードのような長物が突き出していては意味がありません。当然、金属鎧、とくに全身鎧なども身につけません。
もうひとつ。山賊に限らず、こうした集団では頭領の存在は絶対です。いくら集団戦法は苦手といえども、頭の命令に従って行動をするのが基本となります。ならず者をまとめ上がるだけの器はあるわけですから、多少は信頼できるはずです。
しかしどのような形であれ、結局は盗賊集団でしかありません。圧政を討ち滅ぼす軍隊でなければ、山賊というのはいずれ解体されてしまう運命にあります。退治されるか、内輪もめの果てか。どちらにせよ、ファンタジー世界の花形職業というわけにはいかないようです。
昔、鈴鹿の山には妖術を使う鬼の美女が住んでいたそうです。彼女は大勢の荒くれ男を手下と連れて山賊家業に精を出していました。
街道を通る旅人たちは、彼女の発する雷のような声に震え上がり、身ぐるみおいて逃げていく。そのうち、公家や高官役人の行列なども標的にしていきました。
そうやって被害が大きくなってくると今度は、時の天皇から退治の命が下ります。命じられたのがかの有名な武人、坂上田村麿。鬼退治の鬼と呼ばれたとか呼ばれないとか。
田村麿は相手が相手ですから、あらかじめ京都の清水寺に必勝の祈願をしたそうです。そこで給わった霊感と持ち前の腕っ節でもって、この鬼の女山賊を降伏させました。
これまでの罪を悔い改めた女山賊は、田村麿と結婚し、鈴鹿の御前となったそうです。
この話がどこまで事実なのかはわかりませんが、こういった話が出てくるほどに鈴鹿越えは山賊による被害が多かったのだと思います。古文書や民間伝承、物語などの中にも鈴鹿山賊に関する記述が多く残されています。さぞかし旅人は恐ろしかったでしょうね。それが鬼ならなおさらです。