ファンタジー世界には、魔法の武具や呪文の効果をもつアイテムといった神秘の品、自然には存在しない魔法生物などが数多く登場します。エンチャンターとは、物体に魔力を付与することでそれらを生み出す術に長けた魔法使いです。
こうした魔法を付与系魔法と言い、簡易で一時的なものと長期あるいは永続的な効果を持つものがあります。
後者は当然のことながら、片手間にできるようなものではありません。術者の力量にもよりますが、やはりそれなりの時間と儀式、特別な材料などを必要とします。そうした付与系魔法を専門とする者が付与魔術師、エンチャンターというわけです。
エンチャンターたちは、あまり冒険などの表舞台には出てきません。旅の一行の武器を鍛えたり、特別なアイテムを貸し出したりと、どちらかといえばサポート役として登場することが多いようです。
とはいえ、一行の中の魔術師の役割として、戦闘の際に一時的に武器に魔力を帯びさせたり、簡易的なゴーレムを生み出したりといったことは、頻繁に行われています。直接的な破壊呪文とは違って地味な立ち回りではありますが、付与魔術そのものが活躍する機会は比較的多いでしょう。
エンチャンターの服装や装備は、他の魔術師と大して変わりません。使う術こそ違えど、魔法に関わる制約や必要な道具なども基本的には同じです。
彼らに伝わる魔法は、本来の付与系魔法全体から見ればほんの一部だと言われています。かつて栄えていた魔法文明の滅亡とともに多くの魔法が失われた、という話をよく聞きます。
そういった失われた魔法のなかには、古くなった肉体を捨てて自らの魂を新しい器に付与する術もあるといいます。不滅の願いに行き着いたエンチャンターの中には、永遠の生を夢見てこの秘術を復活させ、究めようとする者もいます。
器となるのは、生前に身につけていた物や、魔法使いの象徴である杖などが一般的です。一度、乗り移ってしまえば、その品が壊れたりしない限り魂は不滅となるようですが、その代わり、肉体的な行動は一切取ることは出来ません。そこで、それを手にした者の精神を乗っ取ろうとすることがあります。エンチャンターが敵として扱われるのはこういう状況が多いでしょうか。
たとえば杖に乗り移った場合、その杖に直接触れた者などの精神を乗っ取り、かりそめの肉体として自らのものにしてしまう、といったようなことです。しかし、「知識と魔力を提供する代わりに、姿無き相棒として持ち歩いて欲しい」と、一種の共生関係を結ぶ者もいます。どちらかといえば、こちらの方がお互いにとって良いのかもしれません。
派手さこそないものの、付与魔術はなによりも術者自身に魔法を使う醍醐味を与えてくれるはずです。古い杖や装飾品などを見つけたら、話しかけてみるのもいいでしょう。もしかすると、偉大なエンチャンターに出会えるかもしれません。
神話の世界では、魔法の武具を生み出すのはもっぱら鍛冶屋の仕事となります。ダーナ神族の使う神秘的な武器の多くも鍛冶の神ゴブニュの作ですし、北欧神話に登場するグングニルや折りたたみ巨大帆船を作った小人族も、それらを魔法の儀式ではなく鍛冶の炉から生み出しています。
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