呪いと呼ばれる類の魔法には、一般に二種類のタイプが存在しています。ひとつは「~をせよ」「~~しなければならない」という何らかの義務を負うもので、もうひとつは「~~するな」「~~してはならない」という制約を受けるものです。ギアスとは、後者のように行動の制限を対象者に与える呪文を指します。
(前者の場合は、クエストと呼ばれる呪文になりますが、これをギアスが兼ねることもあります。)
ギアスによって「してはならない」ことを定められた者は、これを守らなければなりません。この制約を破ったり、破ろうとすることがあれば、直ちに肉体的あるいは精神的な罰が与えられます。罰は、激しい苦痛であることが多いようです。この苦痛は非常に耐え難く、長く続けば精神に異常をきたすほどだとも言われています。ごくごくまれに、ギアスを負ったまま、この苦痛に耐えて自分の行動を貫き通すほどの強靱な精神力を持つ者もいますが、普通は真似しない方が良いでしょう。
この呪文によって制約されるものは実に様々です。人から物を盗んではならない、嘘をついてはいけない、鎧を身につけてはならない、どこそこの場所に近寄ってはいけない、というようなものになります。
ただし、瞬きしてはならないとか、汗をかいてはいけない、心臓を動かしてはいけない、というような、生理現象や「実行しないわけにはいかない」ことなどは制約できません。また、一度に制限できるのはひとつの行動だけとなっていますし、重複させるには、たとえ上位の魔法使いであっても、かなり高度な魔法技術が必要となるでしょう。
ギアスの解除は、ギアスをかけた術者本人のみが任意に解除することが出来ます。他人が解除するためには、リムーブ・ギアスやリムーブ・カースといった解除専門の魔法を用意すると良いでしょう。これらの呪文は高位の神官や魔法使いが会得しているはずです。この場合、解除魔法を施す者の魔力が、ギアスを唱えた術者のそれを上回る必要があるかもしれません。
解除のために術者を打ち倒そうとする者もいますが、これはやめておいた方が賢明です。術者が死んでも呪文が解除されない例も報告されているからです。制約されたこと以外においては、なんの苦痛もなく行動できるわけですから、あわてて解除する必要はないとも言えます。
ギアスは、かけられたものが抵抗し、術者の魔力に対して精神的に打ち勝ってしまえばまったく効果があらわれません。失敗することを考えると、使いどころの難しい呪文となっているようです。
ギアスは悪い魔法使いによってかけられる呪文として登場することが多いようです。これによって困難な冒険がより困難なものになることはまちがいありません。しかし、こうした場合以外にも、ギアスは古くから戦争などに利用されてきました。
逃げ出してはいけないとか、勝利するまで剣は放さないとか、敵将の首を取るまでは決して俺は倒れないぞ、というような、一種の願掛けのようなものです。
正式なギアスの呪文は高位の魔法使いとして修行を積まなければ会得できませんが、邪神に仕える神官や悪魔と契約を交わした妖術師などは、命と引き替えに強力な呪いを発動するギアスを一度だけ使用できることもあるようです。