ノックとは、いかなる扉も魔法の力で無理矢理こじ開けてしまう呪文です。魔法の力で封印された扉だけでなく、機械的な鍵や仕掛けも作動、もしくは無効化することができます。
便利な呪文ですが、注意がひとつあります。それは、扉に罠などが仕掛けられている場合、その罠の解除までは行えないということです。この呪文が及ぼす範囲は、あくまでも扉の開閉機構までというわけです。機械的な罠であれば盗賊の出番になるでしょうし、あるいは罠を解除するための呪文を別に用意しておくことになるでしょう。
術のレベルとしては初歩の類に属しており、見習い魔術師程度でも使用することが出来ます。この術さえ身につけておけば、魔術師としての道が破れたとしても、弱小盗賊集団の一員としてくらいなら雇ってもらえるかも知れません。しかし、修行をろくにしていない腕前では、より高位の魔術師が施した魔法の錠を解除することは難しいでしょう。初歩の術だからこそ、日々の鍛錬がものをいう呪文でもあります。
また、この呪文の効果時間にも若干の注意が必要となることもあるようです。機械的な作動の扉などでは「開けっ放し」になるだけですが、相手が魔法の錠であると少し事情が変わります。
場合によっては、開いた扉が再び固く閉じてしまうこともあるわけです。「魔法の錠」を中和していられる時間がどの程度か、それは、錠を施した魔術師と解除を試みる魔術師との力量の差によるでしょう。前述したように、まったく歯が立たないこともあるでしょうし、逆に、完全に「魔法の錠」の術そのものをかき消してしまう場合もあります。
ノックの呪文は主に扉や宝箱といった対象に使われますが、しかし、「人間ひとりの力では開けないような機構には通用しない」などの限定を受ける場合はあるようです。つまり、巨人が使うような扉には効果がないというわけです。この場合は、呪文の効果を拡大して使うか、もっと大がかりな術を選んだ方がいいのでしょう。
対抗呪文について、つまり大事な品物を守る部屋をノックで開かれないようにするための話です。それには、施錠呪文『ロック』の術を用意するのが一番の手だといえます。知り合いの魔術師に、全身全霊の力を振り絞って術を施してもらうように頼むのが一番でしょう。あるいは、何重にも魔法を掛けるのも手です。
それが難しいのであれば、機械的な開閉機構をより複雑にするのも有効です。いくら魔法が偉大な力であったとしても、やはり複雑な作業にはそれなりの難易度がもたらされるからです。
魔法の錠も、機械的な錠も用意できないのであれば、出入りは諦めて四方を壁で潰してしまうのが一番です。そうすればあとは、たとえば『ファイアーボール』などをぶつけられる心配だけをしていればいいはずです。これも立派なノックへの対抗手段のひとつとなるでしょう。
ノックの呪文は、遺跡探索などに精を出す冒険者たちにとって非常に便利な呪文です。しかし、開いた先に財宝が眠っているのか、それとも怪物が待ちかまえているか、それは扉を開いてみるまではわかりません。何でもかんでも開けて進むだけではいけないわけです。聞き耳を立ててみるなどの警戒は常に必要なのは言うまでもありません。最後に開くのが、天国への扉となってしまわないように。