鏡とは、光の反射を利用して、顔や姿を映して見る道具です。ものを映す。左右を逆にする。と、いう点に神秘性を見るためか、鏡は日用品としてだけでなく、数々の魔法の品としても頻繁に登場します。
魔法の鏡には大きく分けて、真実を告げるものと、虚像を映し出すもの、それに異界への扉を開くものがあるようです。だいたいどれも「映す」ということと、「見る」ということが関係する点で共通しています。
人間に化けた怪物や魔法使いの本当の姿を示すという鏡は多いですが、これは真実を映すタイプでしょう。虚像を映すものでは、見た者の隠された願望や、あるいは思ってもいないような映像によって、仲間割れを引き起こす罠としての鏡などが活躍しています。
鏡に映った世界は、似てはいるが左右逆さまの、まったくの別世界だと考える者もいます。それを利用して魔界への扉を開くための触媒として用いる魔法も存在します。
魔法の品ではないはずの普通の鏡であっても、不用意に扉を開くことのないように、『使用しないときは蓋をしたり布をかけておく』ようにする風習もあります。
冒険においても鏡は非常に便利な道具です。通路の曲がり角の向こうを探ることもできますし、罠を隠すためにも使えますし、特定のモンスターがもつ石化の視線なども跳ね返すことさえ可能です。小さなものでも、ひとつくらいは持って行くといいでしょう。
現代の鏡の多くはガラスやプラスチックに金属を蒸着して作られています。古代においてはそのようなものはありません。水鏡や金属板を磨いただけのものでした。
磨いただけと言えば簡単ですが、実際の使用は大変です。青銅の板をとにかく磨いて、というかこすってこすってこすりまくって始めて姿が映るようになるものです。それでも傷つきやすく、おまけに酸化しやすかったため、使い続けるためには鏡を磨き続けなくてはなりません。鏡磨きを職業とする者が大勢いたほどです。
さて、水鏡や青銅鏡の時代、「鏡に映る姿」というのはぼんやりとしたイメージの象徴でした。魔術的呪術的な想起を促すのにはもってこいの品だったのでしょう。時代が進んで今使われているような鏡が普及してくると、今度はありのままをハッキリと映し出す、というイメージに変わりました。しかし、ファンタジー的な匂いがなくなったかというと、そうでもないようです。
そこに映った自分の姿。鏡に背中を向けたとき、その「自分」も背中を向けているのでしょうか…? それとも……