この生贄が汝を喜ばし、汝に受け入れられんことを。

生贄

魔術あるいは呪術の儀式において、場合によっては生贄を捧げる行為が必要となる場合があります。その目的は大きく二つ。魔法の発動に必要な魔力なり霊力なりを、術者自身以外から得るための触媒としてがひとつ。もうひとつは、魔法の力を受け止めるための緩衝材あるいは身代わりとしての役割です。

召喚の儀式で言えば、前者が神や霊の魂が降臨する一時的な器として生贄、召喚獣が好むエサとしての生贄です。人柱などもこうした例のひとつです。供物としての意味合いの他、生命力由来の魔力によって力を得ようとするわけです。

後者の生贄は、呪い返しが行われたときや術が失敗した際の防壁としての役割を指します。たとえば誰かを呪い殺そうとしたとき、その呪いを反射されてしまうと、呪殺術の発動者は自分自身を呪い殺してしまいます。これはもはや反射することは不可能です。あらかじめ生贄の存在を術の中に組み込むことでこの事態を避けることが出来ます。反射された力は生贄を呪い殺すことで消えてしまうので、呪いの術者は無事でいられます。

一般によく好まれる生贄には、牛、羊、山羊、鶏などが挙げられますが、ときには人間もそこに加えられています。なかでもとくに邪神、暗黒神と呼ばれるような存在は若い娘や子供の魂を求めるようです。幸いなことに、こういった存在を呼び出す儀式は大がかりなもので、数日から数十日程度の期間が必要であるうえに、生贄を捧げる時機も術の終盤である場合がほとんどです。邪悪な儀式の多くは、優秀な冒険者や騎士たちによって阻止されているのが実際のパターンでしょう。

そもそも生き物というのはエネルギーの宝庫であり、生贄として死を迎えることによってその大半が解放されると考えられています。生贄は、その生命エネルギーを儀式の中で利用するために捧げられる、というわけです。そうした儀式が行われても生き延びることのできる、生命力の強い人間もいますが、こうした者は神の子と呼ばれるなど、特別な存在として登場することもあります。

人間の行う術には人間の魂がもっとも適しており、とりわけ処女性(男女問わず)が重要視されています。これは、人と交わっていない者の方が神々とのつながりが残っており、より神秘的な力が強い存在とされているからです。

しかし、実際のところ生贄といってもあまり大げさに考えなくとも良いようです。術者の血液で代用されることもありますし、生贄を用いたとしてもわざわざ殺す必要がない場合もあります。術の発動に使われた魂が、安息の地への旅に向かえるのかどうかすらわかりません。魔法に関わる者として、生命を弄ぶような真似は慎むべきでしょう。

もっとも近しい、親しい間柄の人物を捧げることによって、それまでの自分を断ち切るための生贄もあります。魔物としての強さを欲する者が行う儀式によく見られます。人間性と、人間だった過去を切り捨てることによって、魔に関わる存在として生まれ変わる儀式です。果てなき欲望のために行う者もいれば、嘆きや絶望のなかで人間や自分自身を呪いながら転生しようとする者もいます。どちらにせよ、こうした例は悲劇と惨劇が生み出されるだけで、彼らの魂が救われることは決して多くはないようです。

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