ベントリロキズムとは、幻術のひとつで、とくに聴覚だけに作用する呪文です。レベルとしては初歩の術であるため、多くの魔術師が習得していますが、使いどころさえ間違えなければ非常に強力な効果を及ぼすこともできます。
この呪文は、自分の声を一定の範囲内の任意の場所から発せられる術です。しかし、これは呪文の対象者、あるいは対象となった領域に踏み込んでいる相手にだけの認識です。実際に発声の場所が変わるわけではありません。
ベントリロキズムは、相手の注意を逸らしたい場合などによく使われます。意表をついた方向からの声や、逆に対象者の目の前にあるものなどに喋らせる、といった補助的な役割です。うまくすれば、暗闇や霧の中で、相手を罠のある方向へ誘導することもできるでしょう。
もう少し高度な呪文の中には、他人の声や声以外の音までも再現することのできる術も存在しています。そうなればさらに幅のある使い方ができるかと思います。
この呪文の弱いところは、幻覚を引き起こせるだけの精神を持たないモンスターや、他の感覚が優れている動物などには効果を及ぼさない、という点です。また、あまり長時間使用していると、相手に気付かれてしまう可能性も高くなります。それに破壊の魔法とは違い、術者の知恵と機転が強く要求される呪文なので、タイミングを外せば何の意味もありません。たとえば、姿をみられてしまったあとであわてて使ってもしかたがないのです。それどころか、位置を補足されていることに気がつかないままいい気になっていると、騙しているつもりが騙される、という悲劇にもなりかねません。
さて、他にも似た呪文が存在します。風の精霊に声を遠くまで運んでもらう、というもので同じような局面で似たような効果を期待して用いられることがあるようですが、こちらは、ベントリロキズムとは違って実際に声の発生場所を移すことが可能とされています。風の精霊と交信できる方は覚えておいても損はないかと思います。
ベントリロキズム(Ventriloquism)とは、腹話術を意味する言葉です。唇を動かさずに喋ることができるというのは、古代においては神懸かり的な、あるいは呪術的な意味合いがありました。そのため、預言や占いによるお告げなどに用いられることが多かったようです。邪術として迫害された時代もありましたが、いまは娯楽の魔術として親しまれています。