クラーケンとは、海に住む巨大な怪物です。十数メートルから数十メートルにも及ぶ大きさのタコ、もしくはイカのような頭足類のような姿をしています。ときには、まったくの異形の姿をあらわすこともあるようです。
その特長はなんといっても、太く長く強靱にうごめく不気味な腕足、触手でしょう。海面に突き出し、ときには船を丸ごとつかみあげ、海中へと引きずり込んでしまうほどです。
彼らは普段は深い海に暮らしているとされていますが、詳しいことはわかっていません。しかしときおり、捕食のためなのか、自分のテリトリーへの侵入者を追い払うためなのか、通りがかった船を襲う場合があります。そのため、船乗りたちからは海の魔物として恐れられています。
冒険者であれば船に乗る機会もあり、一度くらいは遭遇した経験があるかもしれませんが、クラーケンとの戦いは厳しいものとなるはずです。船に対してあまりに大きければ、たった一撃で船はばらばらにされ、波間に漂う羽目になるでしょう。そうでなくとも、バリスタや艦砲なくては、ダメージを与えることすらできないわけですから。
船上でできることは、魔法の助けを借りるか、あるいは触手を一本一本それぞれを相手にして戦うしか手はありません。
しかし、触手さえふりほどけば逃げることはたやすいようです。クラーケンはあまりすばやくは泳げないとされているからです。とはいえ、安心はできません。こうした怪物が襲ってくるのは、べた一面の凪か、航海ままならぬ嵐のとき……と相場は決まっています。ときにはこの嵐こそがクラーケンの引き起こしたもの、ともいわれます。
もしも運良く生き延びることができれば、伝説の語り部となれること請け合いです。
さて、海の怪物としてだけではなく、クラーケンは召喚獣や精霊の上位種として登場する場合もあります。高位の魔術師や精霊使いでなければ使役することはできませんし、大きな水場に限られるなど条件は厳しいですが、ひとたび姿をあらわせばそれだけで戦況を一変させてしまうだけの威力は備えています。
クラーケンの攻撃方法はもっぱら触手で締め付けたり、叩きつけたり、といったものですが、墨を吐くという説もあります。この墨が捕食者からの逃走用なのか、あるいは何らかの攻撃手段なのかはわかっていません。
怪物として登場することの多いクラーケンですが、なかには温和な性格の持ち主であったり、人語を解する場合もあるなど、どうやら多様な種類が確認されているようです。とにかく、人智を超えた存在であることはまちがいはないでしょう。
北欧伝承の海の生き物。ノルウェー近海やアイスランド沖に出現したとされています。クラーケン(kraken)の名前は、竿、棒、柱を意味する北ゲルマン語群のクラーケkrakeから。英語のcrook,crankなどとも同じ起源の語らしいです。やはりうねうねの触手のイメージなのでしょうか。
軟体動物学者ピエール・デニス・ド・モンフォールによって描かれた、船に襲い掛かる大蛸の図がよく使われています。
クラーケンの名ではなくとも、サガやエッダにも似た怪物は登場しています。現代ではダイオウイカなど、巨大生物は確認されています。