賢者の石とは、錬金術師たちが追い求めた触媒です。 卑金属を黄金に変え、無限大の魔力を生み出し、人間に永遠の命を与えるとされています。つまり、人や物に「永遠性」を付与するためのものです。
錬金術師たちの最終目標でもある賢者の石は、しかし決して完成することはありません。 登場することがあってもせいぜいが未完成品や試作品、性能限定版といったところでしょう。
石とは呼ばれていますが、その形状は様々です。液体、粉末、無形のエネルギー体、金属として登場します。 しかし、多くの場合、何らかのエネルギーの結晶として扱われるようです。 魔力であったり、生命力であったり、精霊の力であったり、様々なパターンが挙げられます。
共通しているのは、強大な力を得るための触媒として扱われているという点です。 大きな力を与えるか、すでにある力を増幅するために用いられます。 実際に使われるとき、本来の目的である、金の創出や不老不死をもたらすことはめったにありません。
ホムンクルスなどの人工生命の製造。土地の生産力向上。呪文効果の増大。無尽蔵の力の源。 あるいは、古代文明の異物を動かすための動力源として活躍することが多いでしょう。
しかしどのように使われるにせよ、そこにはいつも人間の欲が絡んできます。 それだけでなく、賢者の石を造り出すためには莫大な資金と研究時間、ときには人間の生命さえも必要とします。
そのため、賢者の石が歴史の表舞台に登場するとき、必ずといっていいほど、国家単位で世界を揺るがす大事件へと発展する場合が多いようです。
もしかしたら、人の強欲さえも増幅させてしまうのかもしれません。
現実世界においてもやはり、賢者の石は完成されていませんが、アルケミストたちは水銀と硫黄に興味を示していました。
水銀は金属でありながら液体という、見るからに神秘性を感じさせますし、硫黄も温泉という名の「魔法の水」の成分でありますし、物を溶かす酸を生み出しもします。 どちらも神秘性に富んだ物質ではありますが、しかしそこには当然、金を生み出すような性質はありません。 しかし、水銀、硫黄ともに、それらをもとに金メッキ加工を行うことは可能です。
錬金術はこの賢者の石を得るために発展した魔術であり、技術であり、知識です。 そしてさらに発展し、魂の錬金術によって神に近づくことまで考えられてきました。
過去多くの錬金術師たちが試行錯誤を繰り返しながら築いてきたもののなかには、現代化学へと繋がる道もありました。 綺麗にまとめてしまうのならば、彼らが得た技術や知識、これこそが本当の賢者の石といえるでしょう。