同じ価値?

 *  *  * 

 とある屋敷でメイドとして働く彼女は、大きなミスをした。

 部屋の掃除をしているときに、棚に飾られていたガラスの器を落としてしまったのだ。

 美術品に疎い者でさえも思わず見とれてしまうような、見事な装飾の施された器である。

「曇ってたから、磨いておこうと思ったのだけれど……」

 粉々に砕けてしまった破片を拾いながら呟いてみたが、もうどうしようもない。

 これを知った屋敷の主人は、当然のことながら彼女を叱りつけた。

「なんということだ、皿が台無しではないか! このガラス皿を手に入れるのにどれだけ苦労したか。どれだけ大金を積んだことか。さあ、弁償したまえっ! できなければ、君はクビだ!」

 そう言って、主人はメイドを屋敷から放り出してしまったのである。

 翌日、彼女は一枚のガラス皿をもって戻ってきた。そして、屋敷の主人の前へ差し出したのである。

「前の皿の代わりに持ってまいりました」

 しかし、それはどこにでも売っているような皿であったし、事実その通りだった。ごく普通の食器屋で買った品なのだ。

 屋敷の主人は、また、彼女を叱りつけた。

「こんながガラクタがあの皿の代わりになるものか。これのどこに、あの皿と同じだけの価値があるというのだ!」

 彼はそういってメイドを責め立てた。

 すると彼女は突然、買ってきたばかりの皿を床にたたきつけたのである。

 皿は砕け、破片となってあたりに飛び散った。

 そして、彼女は言った。

「ごらんください旦那様。これでこの皿も、前の皿と同じ価値になりましたよ」。


 ↑