とある屋敷でメイドとして働く彼女は、大きなミスをした。
部屋の掃除をしているときに、棚に飾られていたガラスの器を落としてしまったのだ。
美術品に疎い者でさえも思わず見とれてしまうような、見事な装飾の施された器である。
「曇ってたから、磨いておこうと思ったのだけれど……」
粉々に砕けてしまった破片を拾いながら呟いてみたが、もうどうしようもない。
これを知った屋敷の主人は、当然のことながら彼女を叱りつけた。
「なんということだ、皿が台無しではないか! このガラス皿を手に入れるのにどれだけ苦労したか。どれだけ大金を積んだことか。さあ、弁償したまえっ! できなければ、君はクビだ!」
そう言って、主人はメイドを屋敷から放り出してしまったのである。
翌日、彼女は一枚のガラス皿をもって戻ってきた。そして、屋敷の主人の前へ差し出したのである。
「前の皿の代わりに持ってまいりました」
しかし、それはどこにでも売っているような皿であったし、事実その通りだった。ごく普通の食器屋で買った品なのだ。
屋敷の主人は、また、彼女を叱りつけた。
「こんながガラクタがあの皿の代わりになるものか。これのどこに、あの皿と同じだけの価値があるというのだ!」
彼はそういってメイドを責め立てた。
すると彼女は突然、買ってきたばかりの皿を床にたたきつけたのである。
皿は砕け、破片となってあたりに飛び散った。
そして、彼女は言った。
「ごらんください旦那様。これでこの皿も、前の皿と同じ価値になりましたよ」。