猫を飼うことになった。
もう大人になりかけの雌猫だ。
気ままな一人暮らしに彩りを加えたくて、友人からもらい受けたのである。
まだ新しい環境になれないのか、部屋の隅でうずくまる彼女。
私は、友人から聞いた注意を思い出していた。
『猫を飼うときははっきりと年期を決めて、それを猫にもつたえること』
聞くところによると、猫という生き物は化けるらしい。決められた期限を過ぎるとその猫はいつの間にかいなくなり、そして飼い主の元へ恩返しに来るのだ、と。
そんな馬鹿な話があるかと疑う私に、友人はさらに続けた。
『……もしも、期限を告げないで飼うと大変なことになるよ。ず~っと生き続けて、いっちばんタチの悪い古猫として化けてしまうんだって。そうなると恩返しどころか、飼い主に危害を加えるらしいよ』
危害を加える、という言葉が頭の中によみがえる。
とにもかくにも私が、部屋の新たな一員に対してまず行ったことは、名前を付けることでもなく、トイレの場所を教えることでもなく、ばかばかしいネーミングの猫グッズを買いに走ることでもなかった。
「まず二年間! とりあえず二年間、君の世話をするよ! いい? 君が人間の時間を理解できるかどうかは分からないけど、二年後を楽しみにしてるからね」
私の理不尽といっても差し支えのない宣言に、彼女は返事をするかのように長く、ひとつ鳴いた。
それからあらためて、彼女に名前を付け、トイレの場所を教え、近所のペットショップへ猫用のグッズを買いに走った。
やがて、金銭出納帳に書き足した猫費用の欄も当たり前のようになり、興味を示さなくなったおもちゃがゴミ予備軍になった頃。
約束の二年間が過ぎていた。
それでも彼女は相変わらずごく普通の猫のままだった。
化ける、ということが言い伝えにすぎないのかどうかはわからない。
ただ、私の部屋はワンルームマンションの一室なのだ。
「古い家ならともかく……こんな密閉された、縁の下もないような空間から『いつの間にかいなくなる』なんて無理な話だよね」
そして今でも、私と猫は一緒に暮らしている。はやく引っ越さないと、古猫にすらなれないかもね。