座敷童子

 *  *  * 

 みしっ、ぴしっ、と部屋の壁や柱が立てる音を聞いたことがあるだろうか。その家に宿る霊が走り回る音、家鳴りという。

 ある晩のこと。一人暮らしをはじめたばかりの透子さんが眠っていると、ベランダのサッシが軋むような音を立てた。……と思う間もなく壁や床を踏み荒らすような音が続く。さらに、冷蔵庫は倒れ、クッションが舞い、横になっていた透子さんが踏まれた。

「なにっ? なにごとっ? 心霊現象っ?」

 もはや家鳴りなどという生やさしい現象ではない。

 飛び起きて、部屋の明かりを点けた透子さんの目に映ったのは、着物姿の小さな女の子が半泣きで走り回る姿。

 彼女は黒い影に追われていた。

『キャーッ、キャーッ! ゴキブリいやあぁーっ! たすけてー!』

 殺虫剤の匂いが充満し、さらにスリッパの音が響き渡る。女の子の姿は、いつの間にか消えていた。

 透子さんはゴキブリの残骸を片づけて、明かりを消して、ベッドの中でゆっくりと眠った。

 ――夏の夜の出来事である。


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