失われて帯びる神秘のベール

ダマスカス鋼, ダマスクス鋼

戦士が常により高い性能の武器を求めるように、それを作り出す鍛冶師たちもまた、より硬くより強靱な素材を生み出そうとしていました。ダマスカスとは、鋭い刃先、切っ先を持たせることができ、金属の鎧に斬りつけても刃こぼれしないほどの優れた刀剣を作ることができる刃金(鋼)です。

同じように優れた金属素材として、ミスリルやアダマンタイト、オリハルコンも挙げられますが、これらはどちらかといえば人間の手に負える代物ではないでしょう。

作品世界によっては非常に入手が困難な伝説の武器、あるいは素材として登場しますが、多くの場合、前述したミスリルなどとは違って比較的容易に手に入るようです。もちろん、それなりに高額ではあります。

ダマスカス鋼そのものが流通することはあまりなく、たいていはダマスカス鋼から作られた刀剣類として出回っています。刃の表面に浮かび上がる水面のような模様がその特徴です。

現実世界では謎の刃金として扱われますが、ファンタジー世界でも似たようなもので、遠い昔にすでに製造技術が失われていたり、人外の者だけが扱えるというような場合があります。

技術が継承されている場合もありますが、非常に貴重な材料を要するとか、非人道的すぎる手順を踏まなくてはならないなど、なにかしら普及しにくい条件が多くみられるようです。

さて、なんにせよ貴著なダマスカスですが、鉄よりも硬く強靱とされるものの、特別に軽量であるとか、決して腐食しないというようなものではありません。あくまでも優れた金属としての延長線上に位置しているようです。もちろん、魔法の品として登場する場合はこの限りではなく、ミスリルなどに近い性質をもつこともあります。

ダマスカスはミスリルのように装飾品として加工されることはほとんどなく、もっぱら武器、それも刀剣類に多く用いられます。それも、オリハルコンのように神を称えたものではなく、アダマンタイトのように世界の命運を賭けた戦いに備えて鍛えられるというわけでもありません。

人と人との戦いのために、より優れた武器を作り出すための金属として存在しているのがほとんどでしょう。他の神秘的な金属に比べると、少しばかり俗っぽい雰囲気ですが、しかしそれだけ手に入りやすいともいえます。

もし使いこなせるだけの腕のある戦士、剣士ならば、ダマスカス鋼を素材とした剣は是非とも欲しい一品でしょう。

ダマスカス鋼は、他の神秘的な金属のように空想の入り交じった伝説などのなかではなく、はっきりと現実に存在しています。インドのウーツで鋼材が生産され、シリアのダマスカス(本来はディマシュク・アッシャーム 「Dimashq ash-Sham」)で刀剣等に加工されてそこから西欧世界に名を広めました。その特性は錆びにくく、非常に硬く、インド伝来のダマスカス・ソードとして重宝されたといいます。

伝わったのは7世紀頃。しかし、現代ではすでにその製造法は途絶えてしまっています。

西欧では古くから、残された刀剣からダマスカス鋼を再現しようとする試みが競争するように行われていました。これはひとえにより優れた武器を生み出すがためですが、しかしそれが西欧での金属理論の発展に貢献したという事実もあります。

当時の製造法そのものから再現するなどして、非常に近しいところまでは辿り着いているようです。

最近はナノレベルでの解析も進んでいるようなので、いつの日か完全な復元を果たすのかもしれません。

関連キーワード
ダマスカス・ソード, ミスリル, アダマンタイト, オリハルコン

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